妙法蓮華経 陀羅尼品第二十六

 この品は、法華経のこれまでの説法に感激した人びとが、「かならずこの教えを守護いたします」と、つよいことばで誓言し、その守護のための神呪を説いた章で、全章が梵語そのままの陀羅尼(総持真言=あらゆる悪をとどめ、あらゆる善をすすめる力をもつ秘密のことば)に満ちています。その陀羅尼は、ほとんど神々の名(もしくはその異称)の列挙であり、その神々への呼びかけであるといいますから、つまりは〈神々への感応を求める〉ということになりましょう。

五種不翻
 この品には、梵語そのままのことばがいくつもでてきます。なぜ中国語に翻訳しなかったかというと、鳩摩羅什をはじめ、仏教経典を中国語に翻訳した人たちは、どうしても翻訳しないほうがよいと判断したものは、原語の音に似た漢字をあててすませ、わざと原語のまま残しておいたのです。それを〈五種不翻〉といいます。

一、インドの固有の動植物や、伝説上のものの名。

二、一つの語におおくのことがふくまれているので、一語に訳すると原意が十分に尽くされないもの。

三、神秘的なこと。いわゆる秘密の語でこれを翻訳すれば、その奥深い神秘的な意味が減殺されてしまうもの。

四、むかしからの習慣にしたがって、原語のままにしておいたもの。

五、翻訳すれば、真の意味を失ってしまうもの。

以上の五種類の場合があります。